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岐阜県と岐阜県内で小児在宅にかかわっている医師、看護師、行政関係者などが知恵を絞って作り上げた岐阜県版小児在宅パスです

ギャラリー

小児在宅医療総論

小児の在宅医療に関する全体像を示します

在宅導入期 退院3か月前

入院から在宅への移行が決定するまでを中心に解説します

準備期 退院2〜1か月前

NICUから一般病棟への転棟、在宅医療の具体化を中心に解説します

退院・外来通院期

退院を目前にした時期から外来通院のパスを整理します

小児在宅の概要

病院(NICU)から在宅への移行にあたって

周産期に発症した疾患により気管切開、胃瘻造設などの処置をうけたお子さんであっても家で生活することが最も望ましいのはいうまでもありません。本稿ではNICUから医療的ケアを持って在宅に移行する場合に必要なことがらをおおよそ経時的に記載しました。

全体の流れ チェックシート(エクセル)

在宅導入期 (3か月前) 在宅移行期(2か月前) 退院移行期(1か月前) 退院
主治医 病状・治療方針の説明 在宅機器指示書の記入 在宅調整への進行状況説明 外来パスの提示
小児科病棟への連絡 退院日程の決定
在宅療養におけるリスクの説明 在宅医との連携
チーム内での方向性確認 救急隊への連絡
医療機器等の選定
退院目標の設定 緊急時受け入れ体制の確認
各種診断書の作成 緊急時の対応方法の説明
身体障害者手帳
特別児童扶養手当
養育医療
母と子の健康サポート事業
看護師 育児相談者・サポート体制 患児に見合った福祉用具の決定 ケアの継続指導と評価 物品の調整
社会的背景の問題の有無 外来Nrsへの連絡 訪問看護師への連絡
病状の理解度 緊急時のケアに対する説明 外泊時における問題点の把握
病気に対する受け入れ 両親の育児技術習得状況の確認 退院時物品等の準備
NICU訪問 住宅環境の把握と調整
在宅物品の確認、調整 家庭訪問の実施
心理的不安へのケア
家族の受け入れ状況、生活状況確認
経済面・心理面・社会面から生じる問題
日常のケア・処置に対する指導
医療機器に対する説明・指導
協力者の理解度確認
MSW 病状やADL,社会的背景の把握 医療機器の手配 退院に向けての調整
問題点の把握と支援 退院前カンファランス
退院における福祉、経済面の負担説明 福祉用具の手配 関係機関への連絡
訪問看護師の来院日程調整
福祉制度の申請 地域保健師への連絡 訪問リハビリの調整
保健師 訪問看護の選定・連絡
訪問看護師
訪問リハ


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家族とNICUスタッフの意識の共有

障害者福祉サービス

手技の修得

小児科病棟への転棟

退院

家族とNICUスタッフの意識の共有
 お子さんが医療的ケアを有したまま在宅へ移行することを、御家族の方に意識していただく時期は、診断時期でおおよそ2つに分けられます。胎児期に異常が確認された場合は、胎児期から在宅を意識した対応となります。染色体異常症や外科的疾患などが、胎児期に診断されるとまず、産科医から説明が行われます。その後小児科医から説明が行われるのが通常です。この時点で治療の選択とともに御家族の方には受け入れがなされていることが多いです。この場合、NICUから在宅への移行は比較的スムーズです。一方、出生後に疾患が明らかになった場合は、受け入れていただくまでに時間が必要となります。この場合、急性期の治療が一段落した時点で、在宅へ向けての調整が始まります。
 いずれの場合もお子さんの病気を受け入れ、その次に在宅で自分たちが主体となりお子さんをみていくという意識を作るには、一定の時間が必要です。NICUのスタッフは医療的ケアの必要なお子さんであっても家に戻って生活するのが本人にとって一番良いことであるとの意識を家族とともに共有したいと思っています。病院スタッフは在宅に向けての準備と在宅に移行してからも最大限の援助を行うことを伝えます。御家族とお子さん間に愛着形成が十分になされ、御家族が受け入れ一緒に生活していこうという思いをもってもらえさえすれば、その後の様々な問題は、手探りであっても進んでいくことが多いと思います。逆に愛着形成が不十分である場合、面会回数が減少し、在宅への移行が難しくなることもしばしば経験します。十分に医師、看護師、メディカルソーシャルワーカー、時には臨床心理にも介入してもらい、時間をかけて在宅移行への意識作りが御家族に対して行われます。

障害者福祉サービス
 在宅に向かうと決まった時点でNICU入院中に取得できる行政支援、障害認定などについて考慮・検討され御家族が取得または取得に向かっているかを確認します。病院スタッフは退院までに、行政・福祉の支援制度について御家族に情報を提供します。取得までに時間を要するもの、取得すべき優先順位がありますので、その取得状況について、随時、病院スタッフと相談ください。

手技の修得
 手技の修得は在宅に向けて必須なだけでなく、お子さんとの愛着形成にも重要です。病院スタッフは御家族にお子さんの病態を説明し、個々の医療的ケアの必要な理由とその方法について説明します。これができたら家に帰れますよというゴールの設定にもなります。御家族が面会に来られた時に、手技の練習を少しずつ開始します。この間、家に戻ったら一人で行うことになるという意識をもっていただくことも重要です。そのために、NICUから小児科病棟に転棟し1−2週間、スタッフの見守りの中で、医療的ケアを行っていただく時間を設けることが通常行われています。

小児科病棟への転棟
 NICUにいる時から医療的ケアは小児科病棟と共通な手技を意識して行うことになります。転棟はお子さんや御家族に対して肉体的、精神的負担をもたらします。少しでも負担を軽減するため、小児科病棟でも行える医療的ケアでも状態が安定していることを確認して、小児科病棟へ転棟することにしています。NICU・小児科病棟の合同の検討会を行い、児の病態、認識の共有を促進して、万全の体制で行います。在宅への医療的ケアを意識した物品の選定を行います。人工呼吸器、在宅酸素、在宅モニターなど、御家族とスタッフが相談しながら決めていく。御家族が医療的ケアに慣れてきたら、スケジュール表を作成します。栄養の注入、体位変換などを御家族のタイムススケジュールにあわせて1日の予定をたて、週、月単位のものを作成します。詳細は、他の項目で述べられているので参照ください。医療的ケアは大きく分けて、人工呼吸、気管切開、栄養の3つに分けられます。手技に関してお子さんにあわせたパンフレットを作る場合もあります。
 障害者福祉サービスについて手続きはNICUにいる時から継続して進め、この段階では最終の確認を行います。身障者手帳の取得、障害児に関する福祉手当、バギーの作製、吸引器、おむつの給付、特殊寝台、特殊マットの給付、家の改造など、社会的資源の活用を図ります。
 御家族に急変時の対応につき確認を取ります。自宅で起こりうる緊急時の変化につき御家族に伝えておき、その場合の対応方法につき説明し理解していただきます。受診のタイミングについても説明をうけます。

 退院
 在宅への移行場所が決まったら、メディカルソーシャルワーカーなどが病院と地域の両者の窓口となり、在宅移行後に担当する医療、福祉と連絡をとります。
 退院にむけて退院調整会議を行います。退院の数週前に行われる場合が多いです。可能であればNICUにいる時にも行われ、複数回行われる場合もあります。病院側は新生児科医、小児科医、看護師、助産師、メディカルソーシャルワーカー、療育担当、地域側は在宅診療支援医師、訪問看護師、行政担当者等が参加します。会議の中で、基幹病院と在宅診療支援診療所を明らかにします。訪問、支援制度の確認、御家族の中でのキーパーソン、御家族の中での支援体制を確認します。福祉制度についてもメディカルソーシャルワーカーなどから説明、確認させていただきます。短期入所制度について説明を受けていただき、どのようにしたら利用できるかを理解していただきます。
 数回の試験外泊を経て退院し在宅へ移行します。次回の在宅診療支援診療所での定期受診日を設定します。退院後も定期的に多職種によるカンファレンスを行いお子さんをフォローします。
  病院から在宅への移行は大きな流れは決まっていますが、個々の病状、家族の事情など様々な要因で変化します。御家族と病院スタッフが協力・連携し、お子さんに適した在宅への移行作業を行うことで、在宅に移行してからのお子さんの生活質の向上を図り、御家族とお子さんが安心して地域の中で生活することが可能になると思います。

(金子英雄 国立病院機構長良医療センター)