5.往診と訪問診療について

 

訪問診療の定義

 往診は厳密には患者家族の求めに応じて自宅に出向くことを意味しますが、ここでは広くとらえて、定期的に訪問する“訪問診療”を含めて説明します。

 最初にこの用語の定義を明確にしておきます。先に書きましたように、今の医療制度で言う往診とはお子さんの調子が悪くなったときなどに家族から頼まれて医師が訪問することを指しています。一方、調子が悪いわけではないけれど、医師が定期的に自宅で診察する形を訪問診療と呼び、医療制度では報酬が異なっています。

 

在宅医は小児科医にこだわらない

 在宅医療を始めるときには往診医を決めて退院することが一般的です。そうすることで予防接種を自宅で受けたりちょっと調子が悪そうな時に病院を受診するか判断してもらえることもあります。体が小さいときは冬場に受診するだけで体温が下がり体調が一気に崩れることもあるので往診でできるだけ対処し、外出は極力控えることも重要でしょう。

 多くの地域で問題になるのは、往診してくれる小児科医があまりいないということです。確かに子どもに慣れている点では小児科専門医が望ましいようにみえますが、実は小児科医はほとんど往診の経験がありません。お昼休みが取れないほど外来患者さんが多いところもあれば、午後からは予防接種や乳児検診で手一杯というところもあるでしょう。共通しているのは往診のための専用車もなければ医師も看護スタッフも往診に慣れていません。一方、成人を主に診ている内科の医師は午後から往診することが日課になっていることが珍しくありません。「遠くの親戚より近くの他人」と言いますが、滅多に来れない小児科よりフットワークの軽い内科の方が往診医にふさわしいことがあります。ただ、そのような場合でもペアとなって相談に乗ってもらえる小児科医を確保するようにした方がいいでしょう。岐阜県では小児の在宅を担当しても良いと表明している医師の一覧を公開していますので、それを参照すれば往診医を見つけやすいと思われます。岐阜県医師会ホームページはやぶさネットにリンクが張ってあります。

http://www.pref.gifu.lg.jp/kodomo/iryo/shogaisha-iryo/11230/01ika_list.html

 

往診で行う処置と検査

 往診で対応する範囲はあらかじめ相談しておくことも必要ですが、状況に応じて臨機応変に対応することも重要です。たとえば気管切開カニューレや胃瘻の交換などは病院で行うのか往診医が行うか、ということについても、原則、病院での対応と決めていても換気状態が不安定なら往診で気管カニューレを交換してみることもありえます。間違って抜けてしまったなら家族が入れるしかないこともあるでしょうから、日頃からトラブル時の対応についての指導も受けておくといいでしょう。

 在宅での血液検査はある程度可能ですが、あまり検査にこだわってしまうと往診医に負担がかかります。特に内科の医師ですと採血手技に慣れていないだけでなく、点滴のための血管を採血に使ってしまうと後々困ることがありますので、検査をあまり求めないとか、そういう時こそ小児科の出番と言うことで相談に乗ってもらうこともあります。今はごく少量の血液で感染症や呼吸状態の検査が可能になっていますので、そうした検査機材を持っている小児科であれば指先からの採血で検査ができます。あらかじめ指先からの採血セットを自宅に置いておいてもらうことで対応しやすくなります。いずれにしても、在宅医療では検査を優先せず、サチュレーションモニターや呼吸器の換気量、肺の音など、普段から得られる情報を頼りに状態を判断することが重要と思ってください。

 

2回の訪問診療が基本

 往診と訪問診療の違いは最初に書きましたが、在宅では2回の訪問診療を基本に考えていただきたいです。訪問診療は医師側の判断で行きますので、お子さんの体調が安定していても伺うものだと理解してください。多くの患者さんでは病院受診が月1回あるので、2週間後に訪問診療というイメージが強いかもしれません。なお、H27年度までは月1回の訪問診療は評価されませんでしたが、診療報酬の改正があり、H284月からは月1回の訪問診療という枠組みができましたので、小児科にとっては多少、算定しやくなります。